パジャマの王様




パジャマの王様


 早く起きた冬の朝、知らない家のポストに手紙を投函してみた。
 何故って、それは自分でも解らない。なんとなく。
 日が昇る前に目が覚めて、誰もいない、霜がかった道路をカーテンめくって見下ろしていたら急に、今は特別な時間だと思えてきた。私は急いでパジャマの上に厚地のコートを羽織って靴下をはいた。
 今だ。今しかない。
 適当な紙とシャープペンシルをコートのポケットに突っ込んで、私は外へ飛び出した。
「こんな私でも一瞬だけ、世界を変えることができます。
 例えばこの時。空はピンク色で、道路のど真ん中、線をたどれる。
 それはもう、何様?ってくらいに」
 私は酷い字でそう書いて、たまたま目にとまった家のレトロで錆びててキュートなポストにすこん、と入れると、おもいきりにやけた顔で歩き続けた。
 このままどこかに行ってしまおう。
 でも、新聞屋さんのバイクの騒音が私を現実に連れ戻したので、私はこっそり家に帰った。そして、あのボロ家の住人が手紙を読んで大騒ぎを起こさなければいい、と怯えた頃、朝日が昇っていた。
 急に萎えてしまった衝動に私は呆然として、さっき起きたあの一瞬の出来事が遠い日のことのように思えた。その不思議さに首をかしげて寝癖を直しながら、「私はパジャマの王様だったのよ」そう一人ごちた。
 それから突然、静かな王国を冒涜するように鳴り始めた目覚ましに神経をやられた。私はテロリストのようなそれを張り手で止めた。
 気分は荒んでしまった。あの手紙は、パジャマの王様からの手紙はきっと認められないだろう。







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